京は、みずからの心境を語ろうとすると、なぜかひどく言葉が不自由になってしまう。面妖(おか)しなほどに。
「貴様、詩を書くことが趣味だとかいう割に⋯⋯」
そこまで言って、ふいに庵は口をつぐんだ。
――だからこそ、か?
言葉というものの本質を、その恐さを、感覚という未知なるもののどこかで漠然と掴んでいるからこそ。
ひとつの言葉で言い切ってしまうことの恐ろしさ。
相手の言う『それ』を、自分の手持ちの言葉に置き換えて理解し消化し、吸収するしかない。だが、その置き換えの時点で、『それ』は微妙に変化してしまう筈だ。
「⋯⋯」
口が、利けなくなりそうだ。
そして庵は吐き出す言葉を失った。
それでも、この頭の中を言葉という名の記号はぐるぐると回りつづけている。それはもう際限なく、一時も休まずに。
それらは溢れてしまいそうに渦巻いて、このままではいつか破裂してしまう。
自分はどこにやってしまったのだろう、かつて持っていた筈の、あの絶対的な自信を。
絶対的な⋯⋯。そう、絶対⋯⋯的⋯⋯。
「だーかーらー! いいんだよ、おまえはおまえの言葉でしゃべってれば。それが間違いだなんてことないんだからさ。完璧とか正確とか、そんなんじゃなくていいんだって」
「聞かせてくれよ、⋯⋯なぁ、八神」
「聞きたいんだよ、俺は。『おまえの言葉』が」
おまえの声、が。
執筆日不明/2018.11.08 微修正
・口をきかない(きけなくなる)庵の話を考えていた頃の散文