『咎人の檻』後編


 ユキの希望もあって、式は二度挙げることになっていた。三家のために開かれる古式の儀礼には、ユキの友達を呼ぶことができないからだ。チャペルでの宣誓を終えたあとには、披露宴と二次会も企画されている。ただ、ちづるや庵を含めた八咫・八尺瓊の縁者は全員、式にのみ列席し、以降の会への参加を辞退していた。気兼ねなく、気心の知れた者たちだけで過ごして欲しいとの思いからだ。
 式を前にして、庵は京と共に式場の控え室にいた。
 つい先刻までそこにいた筈の柴舟がいずこへか姿を消しており、その夫を探すため静も今はこの場を離れている。
 庵が眺めやる視線の先で、昔から草薙家に出入りしている呉服屋の女将が、手際よく京に着付けを施していた。
 真っ白なタキシードの着付けが終わり女将が出て行ってしまうと、狭い控え室で彼らはふたりきりになる。その状況が気詰まりに思え、さり気なく退室しようとした庵だったが、気配を察したのか、
「一緒にいてくれよ。ひとりじゃ落ち着かねーんだ」
 そう京に懇願され席をはずすタイミングを逸してしまった。仕方なく、庵は傍らの椅子に改めて座り直す。
「どんなにでけェ大会に出たときだって、こんなに緊張したことなかったのにな」
 苦笑いのような照れ笑いのような曖昧な笑顔で言い、前髪を掻き上げようとした京の腕を、咄嗟に掴んで庵がとめる。つい今し方セットしてもらったばかりの髪が早くも崩れてしまうところだった。
「あ、悪りィ⋯⋯」
 助かった、と今度ははっきりそうと判る苦笑いを浮かべた男に、
「少し待っていろ。すぐに戻る」
 庵はそう言いおいて控え室を出る。そして言葉どおり程なく戻ってきた彼の手の中では、紙コップに入った自販機のコーヒーがふたつ、熱い湯気を上げていた。
「水分は控えた方がいいんだろうがな」
 式の間、主役である新郎新婦は簡単には席をはずせない。手洗いに行きたくならぬよう、あまり飲み物を口にしないのが常識だ。
 差し出されるカップを受け取り、口をつけた京が顔を上げる。
「ミルク入りの砂糖抜き。⋯⋯なんで知ってんだ、俺の好み」
 無意識だった。庵の心臓がひとつ大きく跳ねる。
「い⋯⋯以前神楽の屋敷で、そう注文をつけていただろう」
 それを覚えていたのだと、咄嗟についた嘘は、不自然にならなかっただろうか。そうだっけな、と首を傾げる京からそれ以上の追求はなく、
「おまえのは?」
「ブラックだが?」
 それがどうかしたのかと目線で問えば、
「やめろよー、胃に悪いぜー?」
 大仰な顰めっ面。
 昔これとそっくり同じ会話を交わしたことを、庵だけが覚えている。その台詞もその表情も。かつてと同じだ。そっくり、そのまま。
 過去の情景を思い出してどんなに胸を痛めようとも、それを面に出すことはできない。庵は京に気付かれぬよう、そっと息を吐く。
 会話が切れる。が、ふたりでいることの沈黙にはもう慣れた。京の記憶を奪ってから数ヶ月。ようやく彼との新しい距離感を掴みかけている庵がそこにいる。
 次に口を開くきっかけになったのは、空になったカップが京の手によって屑籠へと投げ込まれた音だった。
「なあ八神、おまえにはそういう話、ないのか?」
「ない」
 具象化されない言葉が指すものを庵が取り違えなかったのは、沈黙の間の思考が京のそれと同じだったことに因る。つまり、そういう話、とは、婚姻を指す。
「いまは、じゃなくて?」
「ああ。この先も、だ」
「なんでだよ。マズイんじゃないのか。おまえんトコだって遺していかなきゃなんねーだろ、その血ってヤツをさ」
「封じられてこそいるが、俺の裡にはオロチの血が留まったままだ」
 つまり、自分は純粋な八尺瓊ではないと庵は言いたいらしかった。
「だから八尺瓊の血を遺すのは俺の役目ではない。この婚礼儀式一切が終われば、俺は正式に当主の座から下りる」
 現在も正確には仮当主の身でしかないのだが、一族の代表としての立場で敢えて表舞台に立っているのは、ひとえに京個人と庵個人とのそれまでの確執の消滅を疑う声があるからだ。家としてだけでなく、個人的にも含むところはないのだと、それを周囲に知らしめるため庵は今ここにいる。
「じゃあその後は誰が⋯⋯」
「妹に家督を譲ることになる」
「なんだよ、じゃあ男の当主は俺だけになっちまうっての?」
 ただでさえ立場が弱いのに勘弁してくれよ、と京が情けない声を上げる。
 ここで、草薙家・小島家の関係者に向け、式場への入室を促すアナウンスが流れた。
「時間だ。俺は先に行く」
「ああ。ありがとな」
 京の言葉を背に部屋を出る。
 この式を最後に、庵の当主代行としての役目は終わる。京との直接的な接触もこれが最後になる筈だった。







 新居を構え、ユキと共に暮らす新しい生活が始まってしばらくが経ち、荷ほどきしないまま放置されていた私物の片付けに手を着けた京は、久しく目にしていなかった詩のノートを見つけた。
「すっかり忘れてたな⋯⋯」
 格闘大会に出場する際、記入を求められたプロフィール。趣味の欄を見た友人たちは何故か皆一様に、一拍間をおいて堪えかねたように吹き出したものだ。詩を書くことの何がおかしいのか、京にはわからない。それとも己のイメージにそぐわないということなのか。
 そんな懐かしい情景を思い出しながら、新生活に向けた準備の慌ただしさにかまけ、ずっと開けていなかったノートを捲ってみる。
「⋯⋯?」
 数ページ捲っただけで京の手が動きを止めた。
 覚えのない詩がいくつも書き込まれていることに気付いたのだ。
 切々といっそ潔いほどあからさまに心の裡をさらけ出して綴ったその文字は、紛れもなく自分の筆跡。
 内容に目を通せば、ユキのことを詠んだのでないのは明白だった。綴った時期から推して、自分が彼女相手にゆらいでいた筈はない。
 ならば誰なのだ。自分にこんな想いをさせたのは。
 いったい誰が。
 自分は想像では言葉を綴れない人間だ。だからこれらはすべて実体験ということになる。ただ、抽象的な表現で書くのが常であるため、具体的に誰を指しているのかが自分でも読み取れない。
 ただし、手掛かりならあった。
 紅。
 そして蒼。
 繰り返し出てくるふたつの単語。
 それらの色から連想される人物は、京の周囲にはひとりしかいなかった。
 しかしそれは――。
「まさか、なあ?」
 思い浮かぶその姿の、あまりの有り得なさに思わず声が出る。
 あいつは男じゃないか。しかも、かつてはこの命を狙ってさえいた。
 いや。
 でも。
 この数ヶ月、それまでのブランクを埋めるような頻度で顔を合わせていた彼の、その態度の変化に思いを馳せる。むろん打ち解け切ったとは言い難く、確かに警戒する雰囲気をまとってもいたが、それでもふとした瞬間、昔からいつも側にいたような、そんな錯覚をいだかせるくらいには馴染んだ気配を感じさせることがあった。
 あの感覚は、両家が和解したからというだけで生み出されたものなのだろうか。
「待てよ⋯⋯」
 そんなことよりも。
 なぜ覚えていないのだ。この詩を綴ったときの自分のことを。その状況を。
 ひとつふたつ記憶にないという程度なら有り得ない話ではない。だがこの一冊分まるまる、ひとつも覚えていないとなると、さすがに尋常とは言えまい。あまりにも不自然で、そう、まるで意図的に、外部から何らかの――。
 じわりと腹の奥底から得体の知れないものがこみ上げて来る。不快感を伴うそれは、頭痛をも誘った。
 低く呻いて京は反射的にこめかみを押さえる。
「なんなんだよ、これ⋯⋯」
 外的な衝撃には慣れている。だが、身体の内側から起きる痛みは堪え難い。
 京の手からノートが滑り落ちる。
 急速に狭まっていく視界を知覚したのを最後に、男の意識は闇に落ちた。
 数時間後、京は自室で意識を失って倒れているところを外出先から戻ったユキによって発見され、病院へと搬送される。
 翌日、病室のベッドの上で目覚めた男は、傍らに付き添っていた妻に、八咫の女当主を呼ぶよう静かに告げていた。







 シャキン。
 澄んだ音がひとりの部屋に響く。
 このハサミを使うことはもうない。
 それを知っていながら、庵は散髪用具の一揃えを今も手元に置いていた。
 ふたりで過ごした部屋から持ち出したものはこれだけだ。ほかは全てそのまま置いてきた。処分に必要な費用は前もって支払ってある。
 シャキン。
 このハサミで感情を切り刻んでしまいたい。
 そうして、あの日風に飛ばされて行った一房の黒髪のように、どこか遠くへ運び去って欲しい。
 けれど、想う自由を手放したくはない、と。そう望む気持ちも真実(ほんとう)。
 シャキン。
 たとえこの刃物で切り刻まれ血塗れになったとしても、外傷の痛みなどより、よほど記憶の痛みの方が鮮明で。
「⋯⋯⋯⋯?」
 不意に聴覚に飛び込んできた遠くの喧噪に、庵は顔を上げた。
 程なくしてパタパタと小走りの足音が近づき、失礼しますの言葉を伴って部屋の障子が引き開けられる。
「どうした? やけに表が騒がしいようだが」
「兄様⋯⋯宗主がおみえなのです。兄様に会いたいと申されて⋯⋯。どうなさいますか」
 隠居した者を宗主に面会させるわけにはいかないと説明したのだが引き下がって頂けない、と。庵を自らおとなって状況を伝え、惑いの表情を見せる妹に、兄は頬を弛め、目を伏せてちいさく息を吐いた。
「構わん、ここへ通せ。どう断ったところで聞き入れられるものではない」
 それは宗主の命だという理由からだけではなく。彼はそういう男で、そしてそれを受け入れてしまうのが自分という人間。
「ですが⋯⋯」
 なおも言い募ろうとする女当主を安心させるために、今度こそはっきりと微笑い、
「大丈夫だ」
 元当主は簡潔な言葉を添える。
 しばらくして庵のいる離れへと案内されてきた男は、ひどく剣呑な貌(かお)をしていた。目線で人を射殺せるとしたら、まさに今の彼の眼光がそれだ。
 庵はその視線を正面で受け止め、けれどそれに怯むでもなく慌てるでもなく、ゆったりとした口調で座るよう促し、
「茶を煎れて来よう」
 そう告げて宗主に背を向ける。その、退室しようとする男の後を、
「コーヒーにしてくれ」
 京の声が追った。
「わかった」
 ひとり残された一室で、座るようにとの勧めに従う気になれず、京は立ったまま、初めて訪れた庵の部屋を無遠慮に眺め回す。そうして、机の上に置かれたあるものの存在に、彼の目は釘付けになった。
 想像が確信に変わったのはその瞬間。
 京はうっそりと、我知らず昏く笑んでいた。
 これで。
 これで奴を追いつめることができる。







 ふたり分のコーヒーを乗せた盆を運んで庵が部屋に戻ったとき、既に京は『それ』を手にしていた。
「⋯⋯⋯⋯」
 京の手の内にある物が何であるのかを見留めた途端、それ以上足を進めることができなくなって、庵の身体は戸口に縫いつけられる。
 掛けるべき言葉も見つからない。
「これ、おまえのか?」
 そんな庵を意に介したふうもなく京が訊く。彼がいま手にしているのは、庵が机上に並べていたハサミのうちの一本だ。
 ジャキン、と。ぎこちない手つきで握られた銀色のハサミの脚が開閉し、鈍い音を響かせる。
「⋯⋯いや」
 京のためにしか使われない道具たち。使わない、使えないものならば、それは誰のものでもない。
 庵の振り絞るような声に気付いているのかどうか。京は庵には顔を向けず、己が指を通した銀色の刃物に視線を落としている。
「じゃあ使ってないんだ?」
「ああ」
 今は、と庵は胸の裡に続けた。嘘は言っていない。
「それにしちゃあヤケに綺麗に手入れされてね?」
 今すぐにでも使えそうな程。
「⋯⋯そうか?」
 そこでようやく、固まっていた足を畳から引き剥がすように一歩歩を進め、庵はコーヒーのカップをテーブルに置く。京のために用意されたそれには既にミルクが混ぜてあった。
 京の目線がハサミから離れ、カップを一瞥する。
「俺、言ったことないんだよな」
「?」
 不意に口調が変わった京を、庵は不審の目で眺めやった。
 嫌な、胸騒ぎがする。
「神楽の屋敷に呼ばれてたとき、コーヒーが出されたことなんかなかった」
 庵は息を飲んだ。
 この男は、何を言おうとしているのか。本能は既にその答えを知っているのに、そうであって欲しくないと望む理性がそれを認めようとしていない。警鐘が頭の中に鳴り響く。
「そもそもあの家には無かったんだから、出てくる訳がない」
 日本茶しか出せないからそれで我慢して欲しいと、ちづるにそう言われた。それは彼女にも確認済みだ。
「なのにおまえは言ったよな。俺があの家で注文つけてるのを聞いて、だから俺の味の好みを知ったって」
 式場の控え室で交わした庵との会話を、京は忘れていなかった。
「おかしいと思ってたんだ、ずっと」
 京は弄んでいたハサミを机上に戻し、尚も言葉を続ける。
「俺には、知らないことが多すぎる」
 知っていなければならない日常的なことまでを覚えていないのだから、疑問も生じよう。至るところに崩壊の兆しはあったのだ。それらの綻びを、京がみすみす見逃すわけはない。
「けどな、今日ここに来て確信が持てたよ」
 京はゆっくりと目線を上げ、部屋の中央で棒立ちになっている男の顔を見据えた。
 視線を絡め合い対峙するふたりの間に、緊迫した空気が流れる。
 何を言われるのかと内心に身構える庵に、しかし男は思いも寄らぬことを要求した。
「なあ八神」
 俺の髪を切ってくれないか。
 ひどく軽い口調で。
 話題の飛躍についていけず、庵は瞠目するばかり。
「明日何があるってわけじゃないけど」
 そんな庵を構うことなく京は悪意など微塵も感じさせない風情でいたずらに笑い、半端な長さに伸びた前髪を掻き上げる。
「邪魔くさいんだよな、そろそろ」
 更なる言葉が継がれる頃には、庵も全てを悟っていた。
 京はもう、知っているのだ。何もかも。
 目の前を暗くする衝撃に打ちのめされながら、庵は微かに頷く。
 この期におよんで彼の望みを断る術など庵にありはしなかった。







『神楽、教えて欲しいことがある。八神の⋯⋯八尺瓊の術の中に記憶の操作に関するものはあるのか』
『あります。八咫と八尺瓊は時を止める技を持っています。それに付随するかたちで記憶を操作する術も身につけているのです。時空を操ったことによって生じる記憶の混乱を排除するのに必要ですから』
『それなら例えば⋯⋯例えば一度消した記憶を元に戻すことは可能か?』
『いいえ⋯⋯それは⋯⋯。残念だけど、それは無理だわ』







 あの頃のように。
 ベランダ代わりの庭へ椅子を一脚持ち出して京を座らせ、その首にタオルを巻きつけカットクロスをまとわせる。霧吹きを使って髪を濡らし、細身の櫛で丁寧に梳き、流れを整える。
 懐かしい感触。慣れた手順。
 最後にこの髪に触れてから半年が経とうというのに、庵の手指はその感覚をすこしも忘れていなかった。
 一房。
 指と指の間から覗くそのわずかな長さを、小気味良い音と共に躊躇なく切り落とす。
 庵が操るハサミの刃は、その切れ味をまったく損なっていなかった。こんな日が再び訪れると知って、手入れを続けていたわけではなかったのに。
 まさかこんな日が、ふたたび――。
 庵の手が止まった。
 不意に胸を突き上げて来るものに身体が震え呼吸が詰まり、ついには視界が歪む。
 腕が体側に垂れ、うなだれる。
 頬を熱いものが伝い落ちていた。
 京の記憶を壊してから初めて、庵の眼が涙に濡れる。
 前を向いたまま、京は背後を振り返らない。
「なあ庵」
 京はもう彼のことを八神とは呼ばなかった。
「狡いんじゃねえの? おまえだけ全部覚えてて、俺には何も残さずに」
 おそろしく静かな男の声は、しかし同時に憤怒を伴っている。
「おまえは忘れてないんだよな? 俺の記憶を奪うだけ奪って、おまえは何ひとつ――」
 自分に対して庵が施した術。それを敢行した理由はもう解っている。空白の二年半に起きたことは今も喪失の中にあるが、それでも己の取る行動くらいは想像がついた。そして、それに付き従ったのであろう庵の考えそうなことも。
「それは⋯⋯」
 言い淀んだのは京の後ろに立つ男。
 庵の思い詰めたような細く低い声が頭上から降って来る。その響きは弱く、呻きにも似て。
「それが、俺が受けるべき罰だ。だから⋯⋯」
 だから自分は全てを覚えている。
 想う相手には忘れられ、けれど自分は忘れることを許されず、その飢餓に苦しみ苛まれながら生きる。それが、庵に与えられた罰。
「ふざけるなよ⋯⋯?」
 京は粗雑にタオルごとカットクロスをむしりとると椅子から立ち上がった。振り返る動きだけで空気が裂ける。
「そんな不公平があるかよ!」
 低く押し殺した声音がおそろしく冷たい。
「ゆるさねえ⋯⋯」
 湿って重くなった黒髪が庵の頬に触れる。
 俯き、閉じてしまった目蓋に口付けられて、庵はその腕の先からハサミを取り落とした。
「一生赦してなんかやんねえよ」
 恨み言は口にしない。
 記憶を戻せなどと無理な要求もすまい。
 おまえらの望み通り、ユキとの間に子も成そう。
 しかし。
 ――俺の記憶を壊し、俺から離れて行こうとした、その罪は重いぞ。
「おまえが俺を自分のものじゃないと思うのは勝手だけどな」
 どうやらおまえは何か勘違いをしているらしいから、特別に手ずから教えてやろうじゃないか。感謝するといい。
 京は庵の顎を乱暴な仕草で捕らえると、強引にその面を上げさせる。
「おまえが俺のもんなんだよ、庵。⋯⋯間違えるな」
 だからおまえは一生俺の側にいろ。
 人生の共犯者として。







 力尽くでこじ開けられた口腔が血の味に濡れる。呼吸を奪う激しさで、京は庵のすべてを貪ろうとしている。
 何もかもを攫い尽くす荒れ狂った嵐のただ中で、そのとき庵は知らず微笑んでいた。
 ああ、そうか。
 俺が望んでいたものはこれだったのか。
 囚われたかったのだ、自分は。この男に。
 庵の両腕がゆらりと持ち上がり、そして京の背に廻された。



2005.07.04 脱稿/2018.12.09 微修正 



・初出:2005.10.02 開催「交響月華2」発行 八神庵10周年記念 京×庵小説アンソロジー『恋唄綴 ~ツキノミチ・ヒノヒカリ~』