「村越、がまんしなくていい」
「⋯⋯っ」
そうは言われても。
「その方がおまえが楽だから言ってんだぞ?」
無理だ。
首を振り、頑なに口を閉ざす。
「しょうがねえなァ⋯⋯」
やわらかな苦笑いの後、歯列を抉じ開けねじ込まれたのは緑川の左手指で――。
「!?」
守護神のそれを傷つけることなど出来よう筈もない村越には、顎の力を緩めるしか択(と)れる手段がない。形骸(かたち)無いものを無理に嚥下した喉奥がうつろに痛んだ。
「村越」
なだめるように名を呼ばれ、目蓋を落とせば赤く染まった自身のまなうらを見る。
溢れだす唾液と共に、噛み締めることのかなわなくなった口腔から、それでもなお押し殺した声がとどめようもなくこぼれ落ちた。
2012.03.02 終/2018.11.05 微修正