片頬を包みこむように触れて来た緑川の大きく厚い手のひらに、村越は思わず目を閉じた。
「怖いか?」
「そりゃあ、な⋯⋯」
生まれてこのかた三十余年、男と寝るなどこれが初めてなのである。目一杯緊張しているし、不安感も募る一方だ。
「けど」
「けど?」
「あんただから」
あんたが相手だから。
構わないと思ったし、任せてみようという気になれた。
「村越」
頬をやさしく撫で、すべるように流れたあたたかな手のひらが、あやすように首裏を抱く。
「悪いようにはしねえよ」
「⋯⋯期待してる」
口端を無理に引き上げて、虚勢を張ってでも笑いたかったのに。声がみっともなく震え、いっそ耳を塞いでしまいたい。
ばくばくと煩く跳ねる鼓動に、気がおかしくなりそうだと叫び出す寸前、ゆったりと唇を重ねられ、とたん顎先をざらりと撫でた髭の感触に、相手が男であることを否応なく思い知らされる。それは村越に覚悟を迫る、無言の最後通牒だった。
2012.03.01 終