「松永ァ――ッ!!」
松永が呼び込んだ爆破の暴風に巻き込まれた小十郎の、その最後の叫びを佐助は高く聳えた樹木の先端で聞いていた。聞き終えて、とん、と樹の幹を蹴る。くるりとひとつ身を返すと、火薬のにおいが充満する地上へ降り立った。
松永の姿は既に黒煙の彼方へと消えている。
松永と小十郎、ふたりの対峙、その一部始終を忍は木の上からすべて見届けていた。
土埃がもうもうと立ちこめる瓦解した岩の隙間に、叩き付けられたのだろう小十郎が埋ずもれるようにして座り込んでいるのが見えた。
ふらりと近付き声を掛ける。
「右目の旦那、生きてるかい?」
「てめ、え⋯⋯」
まったくの無傷で眼前に現れた佐助の姿に、小十郎は目を瞠り言葉を飲む。
己が耳にした筈の断末魔、あれはいったい何だったのか。疑問は口にするまでもなく顔に表れており、
「あれ分身」
肩をすくめ、佐助はあっさりと手の内を明かしてみせた。
「チッ」
だから忍ってヤツは嫌いなのだ、と悪態をつく小十郎に、これだけ口がきけるのなら大した痛手は負っていない筈だと素早く判断し、佐助は心の内で安堵する。
「ほら、はやく立ちなよね!」
これ以上、松永の好きにさせる訳にはいかない。早急に追いつき、この先の地で雌雄を決しようとしている主たちを護らねば。松永の狙いが、彼が言うところの『愛でたいもの』であることが知れた今、即座に生命の危機に見舞われることはないと思われたが、かと言って、あのふたりが命惜しさに刀と鎧を差し出すこともまた、まったく想像出来ないのである。
「梟の後を追うんだろ?」
「当たり前だ!」
差し伸べられた佐助の手をはたき落とし、瓦礫の中から自力で起き上がるのが小十郎のせめてもの矜持だった。