政宗の言葉を受けて、佐助はさっそく城下へ身を移し、見晴らしの良さそうな場所を選ぶと、大樹の枝に飛び移り、瞬く間にその天辺まで駆けのぼった。探し物を見つけるには、高所から見渡すのが手っ取り早い。
寝かせた手を眉上で庇に宛がい、ぐるりと視線を動かして見れば、
「うわぁ、マジだわ⋯⋯」
遠目の利く忍の視界の中、畝と畝の間にしゃがみ込み、手慣れた様子で作物を間引いている小十郎の姿が確かに在った。
呟いた次の瞬間には身を翻し、木々の枝から枝へと駆け飛んで、佐助の軽捷な体躯はあっと言う間に小十郎のいる農地に到着している。
「右目の旦那!」
声を掛けざま、繰り出された鍬の刃を喉元へ突き付けられて、佐助は仰け反った体勢で固まった。
「精が出るねぇ⋯⋯」
無理に顎を反らしたまま、目の前の、野良着姿の小十郎にかろうじて手を振って見せれば、
「⋯⋯てめえ」
剣呑に睨み付けられる。
頭部に手ぬぐいを巻き、首からも手ぬぐいを提げ、襷がけに脚絆という小十郎の姿は、完全に農夫である。
「武田の忍がこんなところで何してやがる」
凶器を構えたまま問い質す小十郎の、凄みの効いた声音に気圧されるような佐助ではないし、よもや来訪を歓迎されるだろうなどとも期待はしていなかったが、やはりこの反応には少々傷つく。
――一度は肌も許した仲なのに。
口にすれば、間違いなく鍬の刃の錆にされそうなことを思いつつ、
「独眼竜に訊いたら、畑に居るっていうから」
探して来てみただけだよ、と苦しい姿勢のまま答えると、ようやく鍬の柄が立てられる。やっと顎を引くことができ、佐助が姿勢を楽にしたところで、小十郎のするどい舌打ちが聞こえた。