並んで立つ従者ふたりの視線の先、鍛錬という名目の真剣勝負(あそび)に興じ疲れた主たちが腰を下ろし熱っぽく話し込んでいる。耳をそばだてずとも聞こえるその会話に、十年後、十五年後、といった言葉が混じっていた。
十五年後、か。
生きていれば四十路を超えている筈の自分のことを考え、更に、日の本はどのような姿に変わっているだろうかと思いを馳せてみる。そうして、傍らに佇む存在へと意識を向けた。どうにも、この忍が歳を食った姿というものが男には想像できない。
「十年経とうが十五年経とうが、あんたは今と変わらず竜の側にいるんだろうね」
不意に口をきいたのは忍の方だった。男と同じ言葉を耳にとどめていたらしい。
「俺様には想像出来ないな」
「何がだ」
「あした死ぬかも知れないってのに、それより先のことなんか考えらんない」
「⋯⋯」
ふざけるな、と。心にもないことを、と。小突いてしまえるならそれで良かった。
けれど、表立って戦のないときにさえ死の危険に晒されている忍の言である、そんなことは有り得ぬと嘘でも笑い飛ばしてはやれなかった。
だが。
男は知っている。
十年後、十五年後どころか、それよりももっと先までの展望を持つ忍の視野を。
たとえ、既にそのとき己(お)のが身が滅びていようとも、先の世を生きるだろう主のため、ただ一途に、種を蒔き水を遣り、若い芽を育てていることを。
「てめえの主が知れば泣くぞ」
「三十路も過ぎて泣かれるなんざ、ぞっとしないね」
それまで死ぬ気などさらさらないのだ、と言外に告げて、忍は常のとおり掴みどころのない笑みを浮かべた横顔で、男のそれ以上の詮索を捩じ伏せた。
了 2012.11.08
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2012.11.08のmemoより転載